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東京高等裁判所 平成7年(ネ)3577号 判決 1996年3月28日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

一  前提となる事実関係

本件立木が真里谷の所有であったこと、控訴人が本件立木にその主張に係る明認方法として本件ベニヤ板等を釘打ちしたが、真里谷の保全管理人に選任された對崎は、本件立木が真里谷の所有に属すると主張して、これを撤去したこと、その後に真里谷の管財人に選任された被控訴人も、本件立木が真里谷の所有に属すると主張して、控訴人が本件立木にその主張に係る明認方法を施行することを禁止していること、以上の各事実は当事者間に争いがない。

二  本訴請求の当否

1  控訴人は、本件消費貸借契約及び本件譲渡担保契約に基づき、真里谷から本件消費貸借契約上の債務の担保として本件立木の譲渡を受け、真里谷が右債務を遅滞したため、本件立木の所有権を確定的に取得し、その後、本件ベニア板等を釘打ちして明認方法を施行したと主張するが、控訴人が本件立木の所有権を取得したものであるか否かはともかく、控訴人が本件立木に本件ベニヤ板等を釘打ちしたことは、それ自体をみれば、立木の譲渡についての対抗要件である明認方法の施行と認めるに足るものというべきである。

2  これに対し、被控訴人は、本件ベニア板等の釘打ちによって控訴人が本件立木に明認方法を施行したとしても、会社更生法八〇条一項に基づき、これを否認すると主張するので、控訴人が右明認方法の原因として本件立木の所有権を取得したものであるか否かはさておき、以下、被控訴人主張の否認の当否につき検討することとする。

(一)  会社更生法八〇条一項は対抗要件の否認につき規定しているが、その趣旨は、権利移転の対抗要件は、その原因行為とは別に、それ自体が同法七八条の規定する否認の対象となりうるものであるところ、既に原因行為によって生じた権利移転を完成する行為にすぎないことから、原因行為それ自体に否認の理由がない場合には、できる限り対抗要件を充足させることによって、当事者に所期の目的を達成させようとするとともに、権利の移転があっても、対抗要件を充足しない限り、その譲受人は当該権利の取得を他の一般債権者に対抗することができないので、結局、当該権利は更生会社の財産を構成することになるところ、権利移転が生じた後、対抗要件を充足することもなく推移したのに、その後になって対抗要件が充足された場合には、その間に形成された当該権利が会社財産を構成するものであるとの一般債権者の期待を覆す結果となるため、権利移転の効果が生じた日から一五日を経過した後に悪意でされた対抗要件の充足行為を否認しうるものとしたものである。

(二)  会社更生法八〇条一項の右趣旨・目的に照らし、同項が否認の対象である対抗要件充足行為の主体につき明示的に限定を加えていないことに鑑みると、指名債権譲渡の場合は、その対抗要件制度が当該債務者の譲渡についての認識を通じて第三者に対する公示という構造をとっているため(最高裁判所昭和四九年三月七日第一小法廷判決・民集二八巻二号一七四頁参照)、民法四六七条は右債務者が当該譲渡についてした承諾を対抗要件としているが、このような当該権利の譲渡当事者以外の第三者の行為を会社更生法八〇条一項に基づく否認の対象とすることは、同項の予定しないところである(最高裁判所昭和四〇年三月九日第三小法廷判決・民集一九巻二号三五二頁参照)としても、法が、権利の譲受人に対し、譲渡人の承諾のもとに、右譲受人の単独の行為により右権利の譲渡についての対抗要件を充足する行為をすることを認めている場合には、右承諾ではなく、譲受人のした対抗要件充足行為そのものが会社更生法八〇条一項の否認の対象たる対抗要件充足行為と認めるのが相当である。

(三)  ところで、立木ニ関スル法律一条所定の要件を具備する立木の譲渡につき、同法一六条は、その譲受人が、当該立木の存する土地の所有権又は地上権の登記名義人の証明書により右立木が自己の所有に属することを証明するときは、所有権保存登記をすることができるとしているが、この対抗要件充足行為も、会社更生法八〇条一項の否認の対象となりうるものと解すべきであることは、前記説示のとおりであり、したがって、同項所定の期間の経過後に悪意でされたものであるときには、同項により否認しうるものと解するのが相当である。そして、右の理は、立木の所有者とその地盤の所有者とが同一人であり、立木ニ関スル法律に基づき所有権保存登記がされていない場合で、右立木のみについてされた譲渡につき、いわゆる明認方法が譲渡人の承諾のもとに譲受人によってされたときにも妥当するものと解すべきであり、右対抗要件の充足行為が譲受人の単独の行為によってされたことそれ自体は、会社更生法八〇条一項に基づく否認権の対象とならないとすべき理由とはならないものと解すべきである。

3  控訴人が、本件譲渡担保契約締結の際、真里谷から、本件立木につき明認方法を施すことの承諾を得ていたとしても、本件ベニヤ板等を釘打ちして本件立木に施行した明認方法は、本件譲渡担保契約の締結時及びこれに基づき控訴人が本件立木の所有権を確定的に取得したと主張する時から約三年ないし二年半も経過した後であって、かつ、真里谷が保全管理決定を受けた後にされたものであるうえ、弁論の全趣旨によると、控訴人において真里谷が保全管理決定を受けたことを知って右明認方法を施したものと認められるから、右明認方法は、会社更生法八〇条一項に基づく否認権の対象となるものというべきである。そして、被控訴人が、原審の第一回口頭弁論期日に右明認方法につき否認権を行使して否認したことは、記録上明らかである。したがって、控訴人は、本件立木の所有権の取得をもって被控訴人に対抗しえないものというべきであるから、控訴人の本訴請求は、いずれもその余の点について判断するまでもなく理由がなく、これを棄却した原判決の結論は相当というべきである。

三  よって、本件控訴は理由がないことに帰するので、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柴田保幸 裁判官 小林 亘 裁判官 滝沢孝臣)

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